明治元年に創業され、長い歴史と共に歩まれてきた藤井疊店。現在では、畳を使った化粧ポーチやペットボトルケース、ミニ畳など商品の幅を広げている。四条駅の人込みを抜けて、脇道に入ったところに工房があり、入ったとたんにイグサの懐かしい香りが鼻を抜けた。工房の壁には、畳の縁が壁一面に貼られており、外国人観光客が遊びに来るのも納得なカラフルさと種類の豊富さ。驚いた私の表情を見た藤井さんが作業している手を止め、声をかけてくれた。今回はそんな藤井疊店の6代目店主、藤井資久(よしひさ)さんに話を聞いた。
- —藤井さんのご経歴を教えてください
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1952年12月7日生まれの現在70歳です。明治の初めに藤井疊店が創業されて、畳屋としては150年続いており、私で6代目となります。特に、何かに打ち込んでいたわけはないのですが、野球、卓球、砲丸投げと広く浅くスポーツに取り組んでいました。高校に入るとラグビーを少しだけやっていましたね。本当に少しだけね…。
- —今でもなにかスポーツはされますか?
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休みの日にラグビーをおっちゃん同士で遊び感覚でやっています。健康を保つためにも体を動かすことは大事だからね。他にも、スポーツではないけど、「祇園囃子」を10歳から60年間続けていて、いい運動になります!
- —藤井さんお元気ですね!! ではストレス発散はスポーツでされているという感じですか?
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いや、仕事であまりストレスは感じませんね!息詰まった時は、何も考えない時間を作ることで息を抜いています。最近だと、YouTubeを見ることも多いですよ。政治、スポーツ、歴史、様々なコンテンツがあるから飽きないよね!大谷翔平のプレイ集とかもよく見ます!
- —藤井さんが尊敬する方はいらっしゃいますか?
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マザーテレサです。優しさや愛を与えられる人は凄いと思っています。「愛の反対は無関心」この言葉がとても好きで、関心を持つということは愛するということ、たくさんの事に関心があるのは凄くいいことだと思っていて、どんなことでも関心を持つようにしています。
- —何事にも関心を持つことは大事ですよね!そもそも、なぜ藤井さんは畳職人を目指されたのですか?
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好きな時間が作れるからということが職人になった大きな理由です。会社勤めは自分には合わないなと思っていましたし、職人になると自由に時間を作ることが出来ると思っていました。また、会社勤めだったら時間が縛られますが、畳屋はそうでもないです。実際に、1日中忙しい時もあれば、半日休める時もあるし、ある程度自分で時間を調整することができるというのも理由の一つです。
でもお客さんから頂いた仕事はしっかりとこなしてますよ(笑)
- —畳職人という仕事のどのようなところが好きですか?
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傷んだ畳を綺麗にする事です。傷んだ畳を綺麗にすると気持ちがいいですし、お客さんに喜んでもらえると何よりもうれしいです。畳自体のにおいも好きですしね。 自分の好きなことをして、お客さんにも喜んでもらえる畳職人という仕事は自分に合っていて、とても楽しいです。ただ、昔は重い畳を簡単に持ち上げられたけど、今は、そう簡単には持ち上げられないのが少し悲しいですね。
- —畳を作っていくうえでのこだわりはございますか?
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丁寧に仕事をしてお客さんに喜んでもらう、それがこだわりです。 お客さんのことを一番に考えて、丁寧に仕事をし「畳を綺麗にしてくれてありがとう」というお客さんからの言葉をもらうことが一番ありがたく、やりがいを感じ、この仕事をやっていてよかったなと思える瞬間です。
- —畳業界の現状を教えていただきたいです。
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昔は畳屋さんで働いている職人さんは数多くいました。しかし、住宅ブームも起こって、畳自体の需要の減少もそうですし、畳屋さんも機械を用いるようになりました。手作りの畳屋さんがどんどん少なくなってきていて、機械があれば1人でできる時代に変わりましたね。ここ20年で50件以上なくなっているんじゃないですかね。
- —なるほど…今後、後継者の育成等は考えていらっしゃいますか?
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畳業界の先行きが明るければ、考えましたが、今は考えられないですね。普通の畳屋さんは生活するのも大変な現状があります。30年前は年間で畳が4000万枚くらい動いていましたが、今は700~800万枚しか動かないんです。京都府内だと、空襲の影響を受けていないこともあり、古い家屋、神社仏閣が比較的多くあり、畳も多く残っています。 でも、比較的というだけで、多いというわけではありません。今後10年で畳屋さんもどんどん減るでしょうし、何より畳の値段も上がります。余裕のある人は畳を受け入れてくれると思いますが、そうじゃない人はフローリングに移行していくでしょうね…。難しいです…。
- —やはり現状は厳しいですよね…需要が減ってきている中でも、藤井さんの今後の具体的な目標はありますか?
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畳以外にも挑戦したいですね。畳が売れなかったら、色んなことのせいにできちゃうんですよね。「現代人と畳は合わない」「不景気だから」など、そうではなくて、何か本来の畳とは違うスタイルでチャレンジをしたいと考えています。大きい畳はこれからの時代に合わないと思っていて、ミニ畳にチャレンジしています。ただ、作ってほしい方がいる限り、もちろん畳は作り続けますよ!!それだけだとまだ食べていけないので…
- —最後に、職人を目指す方へのメッセージをお願いします。
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畳じゃなくても、好きなものなら、諦めたらだめだと思います。最後までやる事で何か見えてくるはずです。恐れずに突き進みましょう!
YouTubeで京畳の製作工程をご覧いただけます!