愛知県碧南市で工房を構える株式会社鬼福。この地域は瓦の三大産地としても知られており、言わずと知れた瓦の聖地だ。今回インタビューをさせていただいたのは鬼瓦を製作する鬼師の肩書をもつ鈴木良さん。鬼師という肩書を伺った時点では強面の職人気質の方なのだろうと勝手に想像していたが、実際はその真逆。話してみるとくだらないことが大好きなユーモアあふれる職人さんであった。そんな鈴木さんに、これまでのことと、これからのこと、商品開発におけるアイデアについて話を伺った。
- —子供のころから家業を継ぐことは意識されていたのですか?
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子供のころからは特に意識していないですね。幼少期はただずっとこの工房で遊んでいました。職場が遊び場といった感じで、毎日粘土を触って何かを作っていました。特に親父からも後を継いでくれと言ったことも言われたこともないですし、中学生、高校生と年齢が上がっても一切家業を継ごうとは思っていませんでした。
- —ではいつごろから家業を意識され始めたのですか?
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大学院の試験を受けるタイミングですね。僕は高校の頃から工学部を専攻していて、大学も工学部に進み、研究職を目指していました。しかし、大学4年の夏に大学院の試験を受けるタイミングで今後の進路を考えた時に、家業でもある鬼瓦のことが頭に浮かびました。僕は3人兄弟の長男で、次男、三男が必ず継ぐという保証はないですし、誰も継がずに家業がなくなることがすごく気掛かりでした。将来すごく有名な化学者になって世界中を飛び回ることは面白そうだけど、家業がなくなってしまうとなると一生後悔するだろうなと思い、博士課程に進学する進路から方向転換をし家業を継ぐ決断をしました。
- -家業に入られる前に修行にはいかれましたか?
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修行には行っていません。この業界に関してはそれぞれの流派があるので、うちはうち、外は外という感覚で、親父からもうちのやり方を覚えなさいということで、どこにも修行は行っていないです。今更ですけど、外に出るという選択をとっても面白かったかなと後悔しています。外で修行をすることで違う景色が見えたのではないかと思いますね。
- -鬼師としてどのようなところを誇りに感じられますか?
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正直誇りといったかっこいいものはないですね(笑)伝統産業に携わる方々からするとあるあるだと思うんですけど、鬼瓦が心の底から好きというわけではないんですよね。一般の方々からは好きだから働いていると思われがちですけど、そうじゃないんです。正直に申し上げると、もし家業が鬼瓦メーカーでなくほかの工芸品を作っていれば、それを作る職人になっていたと思います。
けれど、この業界には特別な思い入れがあります。生まれた時からこの業界にご飯を食べさせてもらっていますし、業界の為に、この地域の為に何かできないかという気持ちは人一倍あると思っています。 - -そんな鈴木さんがお仕事をしている中で楽しい!と思う瞬間はどんな時ですか?
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外部に向けて鬼瓦を発信している時ですね。今は製造を若い子に任せて、自分自身は広報としての仕事に徹しています。待っていてもどうにもならないということをコロナ禍で改めて感じ、メディアに出ることを意識しています。このインタビューを受けている今も楽しいです(笑) 記事や動画を見て頂いて、鬼福のことを知ってもらい、メールや、お電話でご連絡を頂いた時は嬉しい限りですね。
- -反対に、現状で苦しいなと思う点はございますか。
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やはり、瓦の需要が減ってきていることですかね。先ほど外部へ発信していると申し上げましたが、何を作ってどこへ届ければいいのか、鬼瓦をどのように活用することができるのかということに日々頭を抱えています。
- —何を作るかという点においては鬼瓦で作られたティッシュケースがかなりメディアに取り上げられていると思うのですが、どのようなところから着想を得たのですか?
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ただ、鬼瓦を用いて何かできないかと考え続けて、ふざけた発想で作ってみたら反響があったんですよね(笑)最初に作り始めた時は、「お前は何をやっとるんだ!」と非難を受けましたが、ただ僕は鬼瓦の魅力を伝えたかっただけなんです。ただそれだけを考え続けた結果があのティッシュケースです。
- —その鬼瓦の魅力はどのようなところにありますか?
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決して機能的で、便利なものではありません。ですが、その歴史に裏付けられたこだわりと感性を感じてもらいたいですね。デザイン性はもちろんですけど、日常にフィットするようなデザインを考えています。
それこそ、コロナ禍になって以降で開催されている、金銭的、経営的なことを一切度外視し、くだらないものを製作する「くだらないものグランプリ」というものにここ数年参加しています。そこでは瓦で作ったヘルメットや、ドリンクホルダー、最近では瓦の素材で黒電話の外側を作ってみました。これ実際に使えるんですよ! 柔らかい頭でアイデアを出すことで何か面白いことが浮かぶのではないかと、くだらないことを考えている時は非常に楽しいです!ロマンがありますね! - -面白いアイデアばかりですね(笑)後継者不足が問題の伝統工芸産業ですが、若者が鈴木さんのお話を聞いて、この業界でもこのような発想ができるのかと思い、工芸品産業に興味を持ってもらえるかもしれないですね!
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そうですね、伝統産業の業界に関わらずですが、これまであったものに捉われずに失敗してもいいから思い切って新しいことにチャレンジするべきだと思います。伝統産業においてはもちろん本物を追い求めることも正解だと思います。自分にとっての正解を見つけて突き進んでみると道は開けてくるのかなという風に考えます!
- -株式会社鬼福としての今後のご展望を教えてください。
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素材に捉われずに新たな商品開発をしていきたいなと思っています。内容はまだ言えませんが、鬼瓦をまた別の形で皆様にお届けできたらと思っています。僕もアイデアを出すことはできますがスナイパーのように1発的中できるわけではないので、マシンガンのようにアイデアを出していき、ヒット商品を作りたいと思っています!
インタビューを終えて
鈴木さんと話していると、本当は鬼瓦が心底好きなのではないかと思ってしまいました。地域に対して、業界に対しての想いを瓦に込めて製作されるそのまなざしは、熱く心に訴えかけられるものがありました。そんな鈴木さんが作る、くすっと笑ってしまうようなティッシュケースを製作される様子は下記でご覧いただけます。水玄京ECサイトにて本商品をお買い求め可能でございます。是非鬼瓦製作の世界をお楽しみください!
YouTubeで三州瓦の製作工程をご覧いただけます!